カザフのイーグル・ハンター
モンゴル高原や中央アジアに住む遊牧民たち。牧畜を生業とする彼らにとって、家畜であるヒツジ、ヤギ、ウマ、ウシ、ラクダの五畜がとても重要な存在とされていると言われていますが、これらの家畜以外にも遊牧民と共生する大切な生き物がいるのを知っていましたか?
それが、鷹狩に用いられている空の王者『イヌワシ』です。
特に鷹狩文化を現在まで継承しているカザフ族にとっては、イヌワシは生活から切り離せない特別な存在と言われています。
今回のブログ記事では、そんな遊牧民と鷹狩についてお話していこうと思います。
鷹狩って?:
鷹狩(たかがり)とは、飼いならしたタカ科のイヌワシなどを訓練して山野に放ち、鳥類や兎・狼・狐などを捕まえる狩猟法で、2010年にユネスコの無形文化遺産として登録されています。
古くから鷹狩は世界各国で楽しまれてきました。
中世イギリスをはじめとしたヨーロッパの国々、江戸時代の日本でも流行し、アラブ首長国連邦では現在でも盛んに行われています。
特に人類に銃が登場する前には、鷹狩は肉を確保する手段として親しまれていたそうです。
ヨーロッパやアラブ、日本における鷹狩は、時間、金銭、空間などが必要とされることから、歴史的に上流階級などの富裕層のステータスとされており、許された階級の人々だけの娯楽やスポーツとして制限されてきました。
カザフ族の『騎馬鷹狩』:
そんな鷹狩ですが、もともと紀元前3000年から紀元前2000年ごろの中央アジアやモンゴル高原が起源と考えられていて、古くから遊牧民の間では何気ない日常の生活技法として発達してきました。
モンゴル最西端の山岳地帯に暮らすカザフ族は、伝統的に『騎馬鷹狩』と呼ばれる馬に乗りながら鷹狩をする技法を今も続けています。
彼らにとって、鷹狩は主に毛皮の獲得を目的としていて、娯楽や食糧獲得の目的ではありません。
氷点下40℃近くまで下がる極寒の冬を生き抜くために、牛、馬、ヒツジなどの家畜の皮革だけでなく、オオカミ、キツネ、ウサギなどの動物の暖かい毛皮が必要不可欠なのです。
カザフ族は、超大型のメスのイヌワシを幼い頃から鷹狩用に訓練します。 一般的にイヌワシなどの鷹類はメスがオスより大きいため、メスの方が鷹狩に重宝されるそうです。
その大きさは羽根を広げると2mを超える程で、体重は10Kg近いこともあるとか。また、イヌワシの寿命は長く、50歳を超えることもあると言われています。
鷹狩は冬の間のみ、チームで行われます。鷹狩の主な流れとしては、まず空腹で感覚が研ぎ澄まされたイヌワシを腕に乗せ、馬で雪の山道を登ります。そして山の岬付近に着くと、イヌワシを空へと放ちます。
すると放たれたイヌワシは獲物を見つけると急降下して、鋭い爪で獲物を捕まえます。イヌワシが獲物を捕まえたら、獲物を全部食べられないうちに、あらかじめ用意しているイヌワシの餌の肉と交換するのです。
獲得した毛皮では、耳当てなどの防寒具や衣服の裏張り、民族衣装、お祝い時の贈呈、交換品としても用いられます。
カザフ 族は、数年間同じイヌワシで狩りを行った後に、イヌワシを自然に帰します。それは、自然に返したイヌワシが子孫を残すことで、また次の世代の繋がるという考えを持っているからです。
騎馬鷹狩はかつて中央アジアの山岳地で広くおこなわれていましたが、 急速に廃れつつあり、現在はアルタイ山脈と天山山脈の一部だけに残っているそうです。
カザフ民族は、 そんな騎馬鷹狩の伝統文化を今でも継承し続けている数少ない騎馬民族なのです。