「血で大地を汚さない」遊牧民の流儀

モンゴルの遊牧民は長く厳しい冬に備えて、11月頃から食糧を蓄えます。

4人程の一家族で大体牛1頭、羊6頭分の家畜を解体し、その肉を凍らせたり干し肉にして保存します。

極寒の冬の間、彼らは保存した家畜の肉を食べてエネルギーを補充し、体を温めるのです。


「一滴の血をも大地に流さない」という流儀

昔からモンゴルには「一滴の血をも大地に流さない」という暗黙のルールがあります。

その為、 モンゴル遊牧民は家畜を屠殺して解体する際、他の遊牧民族のように家畜の血で大地を汚しません。

彼らは家畜の大動脈を切り、動脈から出た血を家畜の体内に溜める特殊な方法で、一滴の血も流さないように捌きます。

例えば、羊を屠殺する際には、まず、家長が羊の足をつかんであおむけにし、お腹から胸の中央の辺りをを10センチほどを切り裂きます。そしてそこに手を差し込んで心臓の血管/大動脈を指でちぎり、動脈から奔出した血液を胸の空間に溜めるのです。

この方法で、羊は苦しむことなく、鳴き声一つあげずに静かに息を引き取ります。また、大地を羊の血で染めることもないのです。

心臓が止まる瞬間を見届けた後、出血死した羊の皮をナイフではぎ取ります。皮と体の間ににぎりこぶしを押し込むようにして、丁寧に剥いでいきます。そして、万が一、血が落ちて大地を汚さないように、剥いだ皮を敷物のように広げるのです。

そして解体です。羊の関節にナイフを入れて頭部と脚をはずします。 大体20分ほどで1匹を解体できるそうです。特殊で素早い解体技術はまるで職人技です。

解体した肉は頭から爪先まで、もちろん内臓も、無駄なく保存し、調理して食べます。血はバケツに集めて、腸に詰めてソーセージにします。

冬の間に凍らせた肉は、春になると自然に乾燥されて、干し肉になるそうです。


モンゴル遊牧民は、古くから大地とそこで生きる家畜と共に生きてきました。

その為、自分達の日々の生活を支える大地や家畜を聖なるものとして考え、大切にしています。自然と共に暮らす彼ら独自の流儀ですね。

このような流儀はどのように生まれ、どのようにモンゴル遊牧民の間で定着したのかは定かではないですが、チンギスハーンの時代から、王族などの貴人を処刑する際には、大地に血を流さない方法が用いられていたそうです。

なんでも、その時代「貴人の死とは、地面に血を流さないで死ぬこと」「高貴な血を大地に流してはならない」と考えられていたとか。

その為、例え相手の貴人が戦いに負けたとしても、最後まで貴人に敬意を持って、丁重に葬ったそうです。

日本の切腹のように「尊厳のある処刑」という文化ですね。

また、「血を流さないで死ぬと、魂は失くならず、生まれ変わることができる」「血液には霊力が宿るので、霊力の強い貴人の血が地面に流れると、そこに霊が留まって悪い影響が出る(祟りをおこす)」とも信じられていたとか。

このような古くからの言い伝えが、もしかするとモンゴル遊牧民が家畜を屠殺する際の流儀に関わっているかもしれませんね。

まとめ:

いかがでしたか?

家畜の血で大地を汚さず、また家畜の全てを無駄にせずに美味しくいただくことで、聖なる大地と家畜に敬意と感謝を示すモンゴル遊牧民。

一年中食べ物で溢れている日本で生活を送る私たちが忘れてしまっている「食と命の関係」を考えさせてくれるのではないでしょうか。