見上げてごらん…ゲルの天窓を

遊牧民の移動式住居「ゲル」(ユルタ/ユルト/パオとも呼ばれる)

このドーム型の移動式住居は、モンゴル遊牧民だけでなく、内モンゴル遊牧民や、カザフスタン やキルギスなどの中央アジア遊牧民、アフガニスタン等の西アジア遊牧民の間でも使用されています。

必要最低限のパーツで簡単に組み立てや解体ができるゲルは、季節やその環境によって家畜とともに移動しながら暮らす遊牧民にとって、とても便利な住居です。

(以前、ゲルの組み立て方というブログ記事も書いたので、よかったらそちらもチェックしてみてください〜)

ゲルの組み立て方:
https://nomadicsoulcrafts.com/blogs/nomadic-soul-blog/howtobuild-ger

 
ゲルは、地域や民族によって若干フォルムや組み立て方法、装飾が異なりますが、主な構成やパーツは同じ。
ゲルを構成するパーツは様々ですが、最も重要と言われているのはゲルの頂部にあたる「天窓」です。※モンゴル語ではこの部分を「トーノ」と呼びます。

ゲルの天窓、なぜ大事??

では、なぜ天窓が一番大事なのでしょうか?
それには彼らの信仰が関係しています…。

モンゴルの遊牧民の間には、古くから「テングリ」 と呼ばれる概念があります。

テングリは「天上世界」「天上神」「創造神」などを意味していて、世界が天上界・地上界・地下界の三つに分かれているという概念です。

この「テングリ」は自然崇拝やシャーマニズム などの土着信仰とも深く結びついている為、特に自然と密接に暮らす遊牧民族にとって、テングリ は聖なるものであり、崇拝の対象なのです。

その為、モンゴル人の暮らしの中には常にこの天空を意識した風習などが多く存在しており、彼らの住居の中で、そのテングリ への信仰が最も現れているのが天窓なのです。

ゲルの中の唯一の窓で、見上げると聖なる天界を見ることができる天窓。


一説には、天窓は天界崇拝の象徴であり神聖な部分とされています。

ゲルの天窓を支える2本の柱の間(天窓の真下)も神聖なスペースとされており、この柱の間を通ったり、手を通して物を渡したり、または物をおいたりすることは縁起が悪いともされているそうです。

モンゴル同様、中央アジアや西アジア遊牧民の間でも、このテングリ信仰やその概念は存在しています。

彼らにとっても、ユルト(ゲル)の天窓はとても神聖な部分とされているそうで、実際、キルギスの国旗やカザフスタンの国章にも、祖国や遊牧文化の象徴として、ゲルの中から天井の中心を見上げたときに見える天窓と太陽が描かれています。

 

  

  

モンゴルゲルの天窓とは形状が異なり、中央アジアのユルトの天窓は、3本の滑らかな曲線が交差しているような図ですね。

このシンプルな図に、彼らの遊牧民としてのアイデンティティーや天空への想いが込められているなんて、なんだかロマンです…。

(ちなみに、ノマディックソウル でも、この天窓の図がプリントされたTシャツを取り扱っているので、ご興味ある方は是非覗いてみてください)

天窓Tシャツ:
https://nomadicsoulcrafts.com/collections/nomad-tenguri-yurt-tshirt

 

天界崇拝は、 モンゴルにチベット仏教が浸透した後や、中央アジアにイスラム教が浸透した後にも根付いている概念です。

特に広大な青空の下で自然と密接に暮らす遊牧民達には、染み付いている概念なのではないでしょうか。

一説にはこの天界崇拝の概念は、古代中国にも存在していたと言われています。

よく考えてみると、日本でも「お天道様がみているから…」というような古くからの考え方がありますね。他の国々でも古代から太陽崇拝や天体崇拝が存在しています。

どこの国でも、古代から人間には自然環境を大きく左右する未知なる天空への憧れや恐れがあり、それがいつしか天界崇拝やテングリの概念へと繋がっていったかもしれませんね。

皆さんも遊牧民のゲルを訪れる機会があったら、是非聖なる天窓を見上げて、天空への思いを馳せてみてください!